びまん性肺疾患とは病変が両側の肺に広範に広がる病気の総称である。その中でも間質が病変の主座となる間質性肺疾患は、特発性肺線維症(IPF)に代表される特発性間質性肺炎や膠原病関連肺疾患、過敏性肺炎、薬剤性肺疾患、リンパ増殖疾患、放射線関連肺疾患、サルコイドーシス、など多岐に広がる疾患群である。治療もステロイドホルモンや免疫抑制薬に代表される抗炎症薬と抗線維化薬の組み合わせによって行われるが、まだまだ分かっていないことも多い。近年新薬の研究も進んできており今後の発展が期待される分野である。
皮膚筋炎・多発性筋炎は強皮症、関節リウマチと並んで間質性肺疾患をきたす膠原病である。筋炎関連間質性肺疾患に関しては、最近抗ARS抗体、抗MDA5抗体が簡単に測定できるようになったが、抗ARS抗体症候群はステロイドや免疫抑制薬などが効果的だと言われている一方、抗MDA5抗体陽性間質性肺疾患は急速進行性となる可能性が高いため、速やかにしっかりとした治療を行う必要がある。これらの疾患を診断するためにはまず画像を見てそれらの疾患を疑うことが大切である。これまでに抗ARS抗体症候群における画像の特徴(Waseda Y, et al. European Journal of Radiology. 2016)、抗MDA5抗体陽性間質性肺炎の画像の特徴(Waseda Y, et al. Mod Rheumatol. 2022)を報告し、早期診断、早期加療についての必要性について検討している。
間質性肺疾患の診断に使用する検査法の一つに気管支肺胞洗浄(BAL)がある。これは従来より行われてきた、生理食塩水にて肺胞を洗浄した液を回収して細胞を分析する手法である。一方で、分析の方法は施設ごとに評価方法が異なっており、統一された方法がない。また、BAL細胞分画の診断に対しても現在保険適応がなく、共通した教育システムもなく、BALを評価している呼吸器内科医も先輩から代々指導を受けて診断しているのが現状である。そもそも呼吸器内科医がBALの評価を行なっている施設そのものが少なくなっており、我々は現在BALの分析方法を統一し、また細胞の正しい診断を行うことに取り組み、世界での診断の統一を目指している。正しい形態学的評価を行うことで、ゆくゆくはBALの診断のAI化の実現を目指している。
間質性肺疾患は診断に際し、問診、他覚所見、血液検査、生理学的検査、画像学的評価が必要であるが、それらに加えて、可能な方には気管支鏡にて気管支肺胞洗浄(BAL)と病理学的検査としてクライオバイオプシー(TBLC)を行っている。さらに診断のために必要であれば呼吸器外科に依頼し外科的肺生検(SLB)を行って頂いている。当科ではそれらのデータを匿名化しバーチャル化した上で、Webシステムを用いて我々呼吸器内科医に加えて、全国の専門の放射線科医、病理医、時に膠原病内科医、皮膚科医などによる集学的検討(MDD)にて診断と治療方針決定を行なっている。時間の経過とともにMDDを何度も繰り返し、診断や治療法が正しいかどうかを見直しながらより確実な診断と治療に結びつけている。
Webを使用すると、地方にいながら中央レベルのディスカッションが行え、また症例によっては膠原病医や皮膚科医も参加いただくことによりさらにレベルの高いディスカッションを行うことが出来る。これらの取り組みを行う上で、従来通りの画像の読影や病理の診断を見て呼吸器内科医のみで診断する方法と比較して呼吸器内科医の診断のレベルが向上しているのかどうかを客観的に検討している。
IgG4関連疾患は、血清IgG4高値、病変組織へのIgG4陽性細胞浸潤および線維化を特徴とする新規の全身性疾患である。その病態としてはTh2優位のサイトカイン産生とともに、IL-10、TGF-β等のサイトカイン産生を認めることが判明している。これまでに金沢大学と富山大学と共同で研究しているLAT Y136F変異マウスの肺病変がIgG4関連呼吸器疾患と類似な病態を示すことを見出した(Waseda Y, et al. PLos One 2021)。近年、獲得免疫を介さずにTh2サイトカインを産出する新しいリンパ球である2型自然リンパ球(ILC2)の存在が明らかになり、それがIL-25やIL-33、thymic stromal lymphopoietin(TSLP)によって刺激されるとIL-5、IL-13の分泌を介して好酸球の増加や高IgE血症、さらにPD-1、PD-L1の作用によりTh2の増殖をもたらすと推定されている。現在、LAT Y136F変異マウスのTh1/Th2バランスの病態形成への影響、ILC2の役割とPD-1、PD-L1の関与の検討を行なっており、本疾患の発生機序の解明を行なっている。
肺がんは様々な癌腫の中で死亡原因の1位であり、その正確な診断や治療法の開発は急務である。当グループでは、得意分野である気管支鏡による肺がんの診断精度の向上に関する研究やがん薬物療法の臨床研究をはじめ、本学高エネルギー医学研究センターと共同し最先端のPET/MRI画像による肺がんの診断や治療効果判定の開発などを通して肺がん診療の向上に寄与すべく研究を行っている。
肺がんの薬物療法の開発は日進月歩で進んでいるが、2次治療以降の薬剤の開発は滞っている状態である。当科及び福井赤十字病院、市立敦賀病院との共同研究で、医師主導臨床研究として非小細胞肺がんの2次治療薬としてnab-パクリタキセルの有用性を検討する前向き第Ⅱ相試験を実施し、これまでの標準治療であるドセタキセルと比べて効果が高い可能性を報告した(Anzai M, et al. Medicine. 2017)。この先行研究の結果は、全国規模のランダム化第Ⅲ相試験(J-AXEL試験. Yoneshima Y, et al. J Thorac Oncol. 2021)で証明された。
さらに、近年広く応用されるようになった免疫チェックポイント阻害剤の後治療で行われる抗がん剤治療が有効である可能性が後方視的検討で多く報告されていたが、前向き試験で証明した報告はなかった。我々の研究グループは、第Ⅱ相試験として進行非小細胞肺がんに対し免疫チェックポイント阻害剤を使用直後のnab-パクリタキセル単剤療法の有効性と安全性の検証を行い、有効性の改善と有害事象の増加がないことを報告した(Sonoda T, et al. Cancer Med. 2023, Nakashima K, et al. Oncology. 2024, Nakashima K, et al. Anticancer Res. 2024)。
ベバシズマブなどの血管新生阻害剤が腫瘍微小環境に好影響を与え、がん免疫療法の効果を増強することがいくつかの基礎研究で示唆されている。現在、我々は非小細胞肺がん症例で免疫チェックポイント阻害剤を使用直後のnab-パクリタキセルとベバシズマブの併用療法の有効性と安全性を評価する臨床試験を進行中である。
福井県は高齢化率の高い県であり、高齢者のがん薬物療法のニーズが高まってきている。今後合併症などにより身体活動性がやや低下している高齢者に対する最適な治療法に関して臨床研究で検討していく予定である。
当院では仮想気管支鏡(VBN: Virtual Bronchoscopic Navigation)システム、極細径気管支鏡、ガイドシース気管支腔内超音波断層法(EBUS-GS)システム、超音波気管支鏡ガイド下針生検システム(EBUS-TBNA)、経食道的気管支鏡下穿刺吸引生検法(endoscopic ultrasound with bronchoscope-guided fine-needle aspiration;EUS-B-FNA)等を導入し、それら新しいデバイスの有用性を検討している。
また、近年発達してきた EBUS-GS 法や VBN を使用しても、診断困難な末梢型肺がんは存在する。EBUS-GS 法は、デバイスが病変内に到達したことを確認する優れた方法であるが、気管支内腔に腫瘍が進展していない場合、診断率が低下することが予想される。そこで、気管支鏡検査前に行われた CT や PET 画像などをもとに、診断率を予測する因子を評価し報告した(Umeda Y, et al. Lung Cancer. 2014)。全身状態の悪い症例に対しても、安全に実施可能なEUS-B-FNAの有用性と安全性に関する前向き研究を実施し、治療法決定に必要な遺伝子パネル検査やPD-L1などの免疫染色などの検査に適切な検体を安全に得られることを報告した (Nakashima K, et al. Intern Med. 2021, Nakashima K, et al. BMC Pulm Med. 2023)。さらに現在実施中の試験として、近年進行肺がんの治療方針決定に重要な次世代シーケンサーを用いた遺伝子変異解析が、EBUS-TBNAを用いた細胞診検体で適切に実施可能か検討している。
本学腫瘍病理学 小林基弘教授の指導を受けて、研究生の中嶋は抗糖鎖抗体を用いた悪性胸膜中皮腫および肺腺癌の糖鎖構造と機能の解析 に関する研究を行っている。悪性胸膜中皮腫を診断するためには、複数の診断マーカーを用いなければならない。しかし、実臨床においては、患者の全身状態や呼吸状態不良により、外科的生検が困難で、針生検等で微小検体しか採取できないこともしばしばある。私たちは、抗糖鎖抗体S1が悪性胸膜中皮腫に高率に染色されることを発見し、報告)した(Nakashima, et al. Lung 2022)。今後、S1が認識しているエピトープのさらなる解析を進めることで、悪性胸膜中皮腫に特異的な診断マーカーの開発につながり、低侵襲な検査手技での診断が可能になることを期待している。また、肺腺癌に発現する糖鎖の違いを検討し、治療効果を解析することでレジメン選択の一助になる可能性がある。
がんの診断において一般的に用いられているFDG に加え、新しいトレーサーを用いた検査法の開発を本学の高エネルギー医学研究センターと共同で行っている。
3’-deoxy-3’-18F-fluoro-thymidine(FLT)はDNA(チミン)の材料となるチミジンのアナログであり Thymidine kinese-1 によりリン酸化されて細胞内に取り込まれるが、DNAには組み込まれない。肺がんを含むいくつかの癌腫において、FLT の集積度と細胞増殖を示す Ki67 陽性細胞の割合が相関することが報告されており細胞増殖のマーカーとして考えられている。
腫瘍増殖能の評価に有用である可能性があり、FLT-PET/MRIを用い非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害剤(PD-1抗体製剤)の治療効果予測を早期に実現可能である可能性があることを報告した(Sato M, et al. J Immunother Cancer. 2021)。また、癌免疫治療が奏効した症例では骨髄細胞の増殖が低下することを発見し報告した(Sato M, et al. EJNMMI Res. 2025)
さらに、がん化学療法の最も重大な副作用は血液毒性であるが、我々は治療前の骨髄細胞の増殖能をFLT集積で評価し、化学療法による血液毒性の重症度との関連を検討し報告している(Umeda Y, et al. Eur Radiol. 2019)。
非小細胞肺がんに使用される抗がん剤の中にはチミン合成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮するペメトレキセドやS-1などが頻用されている。FLTはこのチミン合成系の活性度を表す指標と考えられ、これらの抗がん剤の効果予測因子となりうる。現在我々は肺がんのFLT集積と腫瘍検体でのチミン合成の経路の活性化の程度を評価する臨床研究を実施しており、抗がん剤の適切な選択につながる可能性がある。
FDG-PETは多くの癌腫において応用されているが、この検査法の大きな問題点の一つは炎症性疾患においても集積することである。我々は炎症性疾患においてFDG集積が亢進することを用いて研究を進めてきた。良性疾患では、FDG投与後1時間で病変部のFDG集積が最大となり以降不変か減少することが報告されていたが、我々は間質性肺炎やサルコイドーシスなどの炎症性疾患や肉芽腫性疾患では、病勢の強い部分では1時間後より3時間後で集積が亢進することを報告してきた(Umeda Y, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2009, Umeda Y, et al. Respirology. 2011)。さらに、間質性肺炎の中でも予後不良な特発性肺線維症の生命予後評価における Dual-time-point FDG-PET 画像の有用性を報告した(Umeda Y, et al. J Nucl Med. 2015)。
非結核性抗酸菌症の中でもMAC症は日本人に多く、特に中年の女性に多いと言われている疾患である。自覚症状なく症状増悪もなく経過観察のみとなっている患者もいるが、一部では増悪し治療を要する患者もいる。さらに同じMAC症でも同じ標準治療で改善する患者と増悪する患者の違いに関しては明確な検討はなされていない。さらに、本疾患患者は神経質で抑うつ傾向にある人が多い印象であるが、これに関しても正確な評価はなされていないのが現状である。滋陰至宝湯は体力が衰えている人の慢性咳嗽や痰、微熱が続く時に用いられる漢方薬であり、同時にイライラや不安感も改善する作用があると言われており、NK細胞活性を上げると言われている。そこで軽症肺MAC症の患者に滋陰至宝湯を投与することにより、理学所見や画像がどう変化するかに関して解析を行い、その有用性について検討を行なっている(大学院生山口により論文投稿中)。
肺がん化学療法に関する医師主導型臨床試験を進めている。さらに、肺がんの多施設共同臨床試験にも積極的に参加している。また、間質性肺疾患に対する治験や多施設共同研究にも複数参加している。今後、Endoscopic ultrasound with bronchoscope-guided fine-needle-aspiration(EUS-B-FNA)、気管支サーモプラスティ、クライオバイオプシーなどの気管支内視鏡に関する臨床研究をさらに進める予定である。